◆Saki MATSUYAMA (MA in Art Museum and Galley Studies)D)
2013-14年、私はレスター大学大学院博物館学研究科(Art Museum and Gallery Studies)で学びました。 もともと絵画や彫刻に関心があり、日本の大学で西洋美術史を学びましたが、徐々に、そうした芸術作品を保管・展示する場であるミュージアムという施設の社会的役割や存在意義について、グローバルな視点から学びたいと思うようになりました。留学先としてレスター大学を選んだ理由は、まず一つ目に、日本の大学図書館でいくつか手に取った博物館学の本が、いずれもレスター大学の教授・講師によって執筆されていたということです。これがレスターを知る最初のきっかけになりました。二つ目は、レスター大学の博物館学研究科が研究水準の高さで有名だということです。そして、特に興味を持っていた博物館教育の領域に関しても、専門の先生による充実した講義が受けられると知ったことが、最終的に留学を志す決め手となりました。
イギリスにおける“ミュージアム”の概念は、博物館・美術館・科学館・歴史資料館・動物園や水族館など広範です。大学院の授業は、ミュージアムの歴史、倫理、運営、コレクションの管理、教育普及、ネットやメディアとミュージアムとの関わり等、様々な角度から社会におけるミュージアムの役割を考察し、よりよい在り方を探っていくことを目指して構成されていました。クラスメイトの内訳は、イギリス、ヨーロッパ各国からが約40%、アメリカ・カナダからが25%、アジア系が35%と、グローバルな学習環境でした。大学院の教授たちはこうした多様性に大変理解があり、授業では、イギリスに限らず世界各国の様々なミュージアムの事例が紹介されました。このような環境のおかげで、私自身、多角的な見方が出来るようになり、美術館以外のミュージアムにも積極的に目を向ける姿勢が身に付きました。
授業形態は講義形式が主ですが、少人数でのディスカッションやグループワークもあり、積極的な参加が求められました。月に一度あるStudy Visitとよばれる校外学習では、ヨーク、バーミンガム、ロンドン、マンチェスターなどを訪れました。現地では、実際の展示を見たりスタッフの方の話を聞いたりしながら、事前に与えられた課題に答えていきます。教室を飛び出して大勢でミュージアムを訪れる体験は、とても楽しく、クラスメイトとの親睦がより深まりました。
修論提出後の2カ月間のインターンでは、ロンドンにある博物館で教育普及の仕事に携わり、夏の家族向けワークショップ等のサポートを任せられ、来館者や周辺の住民の方々と関わる上での心得やノウハウを、実践を通じて学びました。新しい環境での慣れない仕事に、初めは戸惑いもありましたが、館のスタッフが学生としてではなく、一スタッフとして対等に接してくださり、困った時には親身にアドバイスをくださいました。現場での経験から得た知識や考え方は、講義や書籍から得られる知識とは異なる、より現実的かつ実践的なもので、将来博物館で働く上での素養が身に付き、貴重な経験となりました。
博物館学研究科は、他の研究科と比べても授業数が多く、大変忙しいコースではありますが、刺激的な授業や課外活動、インターンを通じて、理論・実践をバランスよく学ぶことができる優れたコースだと思います。私はレスター大学博物館学研究科でのコースを終え、博物館での教育普及活動は、コレクションや館に対する来館者の理解を深めることだけでなく、地域社会が抱える問題の解決や、人々の生活を豊かにすることを目指してデザインされるべきだ、という明確な考えを持つことができるようになりました。今後は日本の博物館の現場で経験を積みながら、自身の関心や問題意識と向き合い、新しい博物館運営の在り方を模索していきたいと考えています。このようなかけがえのない経験は、周りの人の支えと日本事務局の福元さんの親切なサポートなしでは出来ませんでした。最後にこの場をお借りして、心より御礼申し上げます。